2022年度4号「つながる、ひろがる ヒト・モノ・コト」インタビュー

公開日 2023年02月20日

三鷹まちづくり通信2022年度4号(2023年2月20日発行)

ワーカーズコープ(労働者協同組合)という新しい働き方・暮らし方とは。8人が実現した「みんなが経営者」というカタチ。

 三鷹にユニークで魅力的なお店がオープンしました。志を共にする仲間が集まって立ち上げた「量り売りとまちの台所 野の」です。 野のは、“メンバー全員が経営者”という新しい働き方を目指しているお店です。

 コロナ禍をきっかけに今までの働き方や暮らしを見つめ直したメンバーの一人、濵絵里子さんに、お店を立ち上げた経緯や想いについて伺いました。

私たちの暮らしに合う“量り売り”を、三鷹で

■インタビュー 合同会社 野の 濵 絵里子さん

 初めて訪れてもどことなく心が和む「量り売りとまちの台所 野の」さん。2022年10月、三鷹駅南口にオープンしました。店に入ると、シェアキッチンのスペースの奥に、新鮮な野菜、食品、日用品の量り売りやはだか売りの陳列棚が並びます。お店に並ぶ商品は、野菜、豆、煮干し、小麦粉、どれも量り売り。プラスチック容器包装を出さないよう、家にある瓶や容器を持参して買い物ができる仕組みです。

 環境に配慮したお店を始めたきっかけを濵絵里子さんに伺うと「環境問題に関して、以前は全く興味がありませんでした。」と意外な答え。環境問題を意識するようになったのはニュージーランド出身のご主人の影響で、「ニュージーランドでは、夏は海に潜りに行ったり、ハイキングをしたり、休みの日を自然の中で過ごす習慣があります。自然との触れ合いの中で、気候の危機や問題に興味を持ちました。例えば、海に潜るとサンゴが白色化していたり、今、地球が危ういのではないかと実感しました。」と濵さん。

 環境について勉強するうちに、ヨーロッパでは量り売りのお店が当たり前であることを知り、日本でもできないかと思ったそうです。調べてみると東京にすでに量り売りのお店がいくつかあり、実際に見学に行き「これは三鷹でもできるんじゃないか。普段使う醬油や味噌、カツオ節やお出汁の昆布など、私たち日本人の肌に合う生活に合うような商品をお店で扱ったらどうか。」とイメージが湧きました。

 そして、もうひとつのきっかけはコロナ禍。「自分たちの働き方や暮らし方はこのままでいいのかな?と思うようになりました。私たちが買っている、買わされているのは、うまい具合に資本主義社会の中で用意されているものの中から選ばされていると感じました。そうではなく、自分たちからもっと能動的に、いい生産者さんがいたら自分たちで応援して支えていく。環境に配慮しながら、生産している人たちを応援するようなことをやりたい。」と量り売りのお店に至る経緯を話してくれました。

量り売りとまちの台所 野の
量り売りとまちの台所 野の
合同会社 野の 濵 絵里子さん
合同会社 野の 濵 絵里子さん

みんなが経営者の新しい働き方

 濵さんは、まず身近な人に声を掛けました。その人がさらに声をかけてくれ、一人、また一人と、共感してくれる仲間が集まり、2022年5月30日(ごみゼロの日)に8人で合同会社を立ち上げました。メンバーのほとんどは三鷹市民。年齢が違えば仕事も違う仲間との出会いは、濱さんが以前から行っていた地域活動や、コロナのため外出自粛を余儀なくされたご家庭と三鷹市内の飲食店や農家さんとを繋ぐ、地域密着の配達サービス「チリンチリン三鷹」(2022年7月30日で活動終了)がきっかけです 。チリンチリン三鷹をきっかけに三鷹の様々な生産者の方々ともつながって行きました。「一人ひとり得意なことがあって、興味もみんな違います。それぞれの興味に合わせてアメーバのように動いていけたら面白い。このお店に8人はちょっと多いかもしれませんが、ひとり欠けても成り立ちません。」奇跡の出会いだと濵さんは言います。

 会社設立の際に興味を持ったのは「ワーカーズコープ=労働者協同組合」という働き方。雇う、雇われると言う関係ではなく、みんなで出資し合って会社を創り、全員が経営者として動き、動かすという組織です。「海外ではこのワーカーズコープと言う働き方が広がっていると聞いて、会社をやるならそのスタイルでやりたいと思いました。自分たちで会社を立ち上げて、売り上げはそれぞれが働いた分で分配する。みんなが経営者です。出資は自分が出せる範囲。今は合同会社と言う形なので代表者はいますが、出資額にかかわらず、みんなが対等の立場でお店の経営について協議し、進めています。将来的には“労働者協同組合”を目指したいです。」と濵さん。

 人数が増えれば、目指しているものは同じでも考え方が異なることもあり、どう折り合いをつけるかが難しいところ。そんな時はどうするのか尋ねると「人とやるということは、そういうこと。相手を想うことが大事だと常にみんなで話しています。私たちには“野の憲章”というものがあって、大切なことを見失わないよう、立ち返るために作成したものです。何か困ったことがあったら、何でもみんなで話し合おうということが書かれています。売り上げがシビアだと見失ってしまうこともありますが、そんな時はその憲章に立ち返ります。」

野ののメンバーのみなさん
野ののメンバーのみなさん

「まちの台所」に込めた想い

 店名には2つの想いが込められています。ひとつは、なるべくローカルなものをお勧めして、伝えていくこと。もうひとつは、三鷹、武蔵野地域でお店をやりたい人のチャレンジの場を作ることです。このお店を始める時、一番苦労したのが物件探しでした。三鷹駅周辺は家賃の相場が高いこともあり、チャレンジしたくてもなかなか難しいのが現状。若い人がチャレンジできるような場を作りたいとシェアキッチンも始めました。「ここは普通のレストランや量り売りのお店とは違う場所。まちのいろいろな人が来て、美味しいものを食べたり、環境について話したりできる共有地にしたい。だから私たち野のの社員が全部やるのではなく、お客様も一緒にお店を作っていってほしい。オーガニック食品にこだわるのではなく、頑張っている三鷹の若手慣行農家※さんも巻き込みながら、環境のことを一緒に考えていきましょうというスタイルです。」と話す濵さん。

 三鷹の生産者とのつながりも「チリンチリン三鷹」などがきっかけ。野のに並ぶ野菜は、生産者が曜日ごとに変わります。貴重な三鷹産小麦粉も取り扱っています。野菜や調味料の他には「wata焼き菓子」さん(2022年度2号で紹介)のお菓子も扱います。
 量り売りはお客様に好評で、単身世帯の方は「スーパーで買うと余ってしまう。欲しいだけ買えるのはありがたい。」と話し、高齢の方は「本当にちょうどいいのよ。ちょっとでいいのよ。」と喜んでくれます。お客様は必要な量だけ買うと、その安さに驚くそうです。
 濵さんは「それに、量り売りってやっぱり面白いんです。醤油を自分で瓶に詰めて100gぴったりに入れられると嬉しい。今日はあのお店に行くからこの容器をもっていこうと思っていただけるお店になるまで頑張りたい。」と三鷹で量り売りが当たり前になることを目指します。

 野のの活動は副業で、本業では一人で集中して仕事をすることが多いという濵さん。自分で決めて判断して働く方がスムーズで早いと語ります。一方、仲間と相談しながら進めるのは時間がかかりますが、その面倒くささに“8人でやる面白さ”を感じるそうです。「私が考えつかないアイデアが出てくると、ザワッとします。自分には無い世界を見せてもらえて、とても刺激的です。お店をみんなの場所にしたいというのが私たちのコンセプト、だから量り売りの隣でシェアキッチンもやろう!という案が出た時は、私には考えつきもしない発想だったので、一番ザワつきました。」とニッコリ。この先どんなざわつくアイデアが飛び出すか?目が離せない「量り売りとまちの台所 野の」さんです。

次回:地域で働くことと暮らすことの意義や別のメンバーの視点を深堀りしたいと思います!

※慣行農業…化学農薬や化学肥料を使用した一般的な栽培方法

1.商品の棚から 2.トングやカップで必要な分だけ取り、 3.レジに持っていく。

ライター:細川優子

愛するまち三鷹に目を向け、地域資源を活かして始めた新しい事業や、同じ目的・関心から生まれた集まりなど、さまざまな形で地域の活動に取り組む人を紹介します。

ライター:細川優子