公開日 2025年12月01日
三鷹まちづくり通信2025年度3号(2025年12月1日発行)

東八道路と下本宿通りの合流地点に面したチョコレート色のタイル張りの建物。地域との関係を大切にしながら世界を目指す、チョコレート専門店「MOKA CHOCOLATE & Factory」はそこにあります。オーナーの小清水圭太さんに三鷹の地に開業するまでの歩みと、チャレンジを続けていくビジョンを伺いました。
宇宙への夢から、お菓子の道へ
「MOKA CHOCOLATE & Factory」のオーナーとして、店頭で販売されるチョコレートはもちろんのこと、お店の地下にある工場で、ホテルやレストランから依頼される多種多様な受託製造も幅広く手掛ける小清水さん。元々は宇宙工学に興味があり、その分野で大学進学を目指していたそうです。なりたい自分の姿を思い描くなかで、次第に人を笑顔にできる仕事とは何だろうと考えるようになりました。そして思い浮かんだのが、誕生日や結婚式といった特別な場面で人を笑顔にする“お菓子”でした。そこから進路を方向転換し、製菓学校へ進学しました。
数あるお菓子のなかでチョコレート専門店を開業するきっかけとなったのは、専門学校の研修旅行で訪れたフランスで出会ったボンボンショコラでした。小さな一粒に作り手のこだわりと技術が詰まっていることに強く惹かれ、その美しさとかっこよさに心を奪われたといいます。その出会いが、チョコレート一筋の道を歩む出発点になりました。
卒業後は、チョコレート店の店長や、百貨店のパティシエなど、さまざまな場所で経験を重ねながら洋菓子のコンテストにも挑戦し、技術を磨いていきました。その後、独立して、パティシエが学ぶようなプロ仕様のお菓子細工の教室を開くことを志します。
「一人前になってから独立するという考え方もありますが、どこからが一人前なのかは明確ではありません。教室を開きながら学ぶこともできるし、一生勉強という気持ちで一歩を踏み出しました」と小清水さんは当時の想いを語ってくれました。

店頭には人気の「柿の種ショコラ」などのチョコレートのほか、焼き菓子も並びます
逆境が育てた、地域に根ざすチョコレート店
独立するにあたり物件を探し始めたときは、教室を開くことが目的だったため、小売店にとってのメリットである人通りの多さなどは、条件から外しました。その後、すでに製造許可を取得していたこと、そして周辺の緑豊かな環境が決め手となり、今のお店からほど近い三鷹市内の物件で教室を始めることに決めました。「もともと三鷹市には三鷹の森ジブリ美術館があり、海外からも人が訪れるイメージを持っていました。実際に住んでみると暮らしやすく、居心地もいい。こういう環境でスタートできたのは運が良かったと思います」と懐かしそうに振り返ります。
開講からしばらくすると、受託製造の案件として、生チョコレート96万個という大口の製造依頼が舞い込みました。教室の設備では製造することができず、そのための工場が必要になりました。物件を探したところ、ちょうど教室の近くで、地下にある元製麺所という好条件の物件が見つかりました。そしてそこが、現在の「MOKA CHOCOLATE & Factory」の店舗を構える場所となりました。工場の立ち上げには三鷹市の創業支援制度も活用し、わずか2か月足らずで店舗兼工房が完成しました。
環境も整い、順調なスタートに見えた新事業でしたが、実際に入った注文は予定していた個数の10分の1でした。いきなり経営の危機に直面した小清水さんでしたが、その時に考えたのが、工場でのチョコレートの直売でした。チラシをポスティングして開店を知らせたところ、ちょうどバレンタインシーズンと重なり、長蛇の列ができるほど多くのお客様が訪れたそうです。「看板もなく、地下へ人が入っていくという、ちょっと謎で不思議なお店からのスタートでした」と苦笑しながら思い返します。その後、他の受託製造の注文なども入るようになり、経営は徐々に安定していきました。
材料に使用するチョコレートは高品質なものを厳選しています。大量仕入れによるコストのメリットを活かし、店頭で販売する商品はできる限り価格を抑えるよう心がけています。学生時代に訪れたフランスでは、街を歩けば100メートルごとにチョコレート店があるほどで、日本のコンビニのようにチョコレートが暮らしに根付いていました。地域の人に美味しいチョコレートを気軽に楽しんでもらいたい。そんな強い思いを込めて、商品開発に取り組んでいます。
小清水さんは、最初からお店を開く予定であれば、駅から遠いこの場所を選ばなかっただろうと振り返ります。しかしこの立地が功を奏し、周辺に競合店が少なかったことから、地域のお客様が多く足を運んでくれるようになりました。また、近くには小学校や中学校も多く、その周辺に住んでいる家族連れのお客様も増えていきました。それを受けて、小清水さんは、もっと居心地よく、楽しんでもらえる場所にしたいという思いから、工場の物件の1階に空きが出たタイミングでそこも借りて、カフェスペースをオープンしました。今では季節ごとのドリンクやジェラートなどのスイーツとともに談笑するお客様でにぎわっています。
地域を盛り上げる取り組みにも積極的に参加しています。地元の商店会である「新川商工栄会」に加入し、地域の団体と協力して開催している「新川宿ふれあい通り朝市」への出店や、地域活動団体「Mitakanowa(みたかのわ)」が主催するハロウィンイベントでは、お菓子ラリーの参加店として子どもたちを迎えています。

ゆったりとくつろげる空間のカフェスペース
挑戦の先に描く、ワクワクする未来
「面白いことはやる」というのが、小清水さんが経営する上で大切にしている信条です。
「遊び心というか、面白いことはやろうと思っていて、やるかやらないかは、面白いかどうかが決め手です。自分自身はもちろん、お客様や事業に関わる皆さんがワクワクするようなことに挑戦していきたいです」と力強く語ります。
その挑戦の一つが、ショコラティエの世界一を競う「ワールドチョコレートマスターズ」です。次回は2026年に開催され、この大会に小清水さんは日本代表としてエントリーし、頂点を目指します。大会への参加は学生時代からの夢でしたが、大会ごとに異なるテーマとその内容の過酷さゆえ、これまで挑戦できずにいました。しかし、今大会のテーマが“play”と発表された時、小清水さんは「ワクワクする作品が作れる。このテーマなら誰にも負けない」と挑戦に向けた熱意を燃やし始めました。開業したばかりで通常業務との両立に不安もあり、参加を迷いましたが、スタッフや周囲からの後悔しないように挑戦してほしいという言葉に背中を押され、大会に挑むことにしました。
大会で発表する作品には数多くの課題が課されます。その中には、廃棄物の削減や食材のアップサイクルといったものも求められます。そこで、小清水さんは、三鷹の天神山須藤園さんのオリーブリーフパウダーを活用しました。廃棄されるオリーブの葉を原料としたもので、ポリフェノールが豊富で健康にも良い素材です。多くの協力を得て臨んだ国内選考では、見事部門最優秀賞&総合優勝を果たし、日本代表の座を勝ち取りました。その後、須藤さんとのご縁で、三鷹市長への表敬訪問も実現。その様子は市報にも掲載され、小清水さんの挑戦は市内の多くの人に知られることになりました。
今後の展望について伺うと「一つは、積極的にさまざまな業種の方とつながって、チョコレートの世界に縛られず新しいことに挑戦していきたいです。今も、ゲームやアニメ会社さんにお声がけをして、世界へ挑むためのチーム作りを進めています。今まで接点が無かったような異業種の方と一緒に取り組むことで、面白い何かが生まれるんじゃないかと考えています。もう一つは、このお店を子どもも大人もワクワクするチョコレートのテーマパークのような場所にすることです。世界一ワクワクするようなチョコレート工場。それをつくれるのは自分なんじゃないかと勝手に思っているんです。まずは来年、世界一が獲れればいいな」と笑顔で答えてくれました。
美味しいのは当然。小清水さんが目指すのは、その先にあるワクワクする未来です。

編集後記
あなたを思うと自然と笑みがこぼれて、胸のあたりがぽっと温かくなるのを感じます。子どもの頃から、ずっと私のそばにいて、いつも元気をくれてありがとう。心の底から大好きです、チョコレート。

愛するまち三鷹に目を向け、地域資源を活かして始めた新しい事業や、同じ目的・関心から生まれた集まりなど、さまざまな形で地域の活動に取り組む人を紹介します。
ライター:細川優子
