2025年度2号「つながる、ひろがる ヒト・モノ・コト」インタビュー

公開日 2025年09月01日

三鷹まちづくり通信2025年度2号(2025年9月1日発行)

あなたのビジネスをカタチにするお手伝いをします。―M-PORTコーディネーター相談―

 「M-PORT」でコーディネーターとして起業相談に向き合う、一般社団法人ビジネスシードの浅川絢子さん。起業を志す人にとって心強い伴走者です。
 相談員としての役割や、起業を考えている人へのヒントやアドバイスを、ご自身の創業時のエピソードも交えながら伺いました。

創業を支える伴走者

 2025年8月、三鷹産業プラザ1階に新しく、三鷹市における起業・創業の拠点「M-PORT」がグランドオープンしました。起業を目指す方から事業を展開している方まで、幅広いステージの創業者をサポートする施設です。

 M-PORTは、様々な創業支援メニューを備えており、その中の1つとして、相談員(先輩起業家のコーディネーターや税理士、社労士などの専門家)が経営や創業に関するさまざまな相談に対応する無料相談窓口があります。

 一般社団法人ビジネスシードの代表理事として、多摩地域の地方公共団体や商工会、信用金庫などからの依頼を受け、起業・創業支援や女性が活躍できる働き方や就労支援、まちづくりに取り組んでいる浅川さん。M-PORTでは創業や経営に関する相談に応じるコーディネーターとして活動するほか、創業期に必要な「経営」「販路開拓」「人材育成」「財務」の4項目を体系的に学ぶことができる「みたか起業塾」等のセミナー講師として、「経営」と「販路開拓」の2つの分野を担当し、起業をサポートしています。

 今では創業する人を支援する立場にある浅川さんですが、三鷹市の起業・創業についての取り組みが、自身にとって起業するきっかけとなったそうです。育児休職中に三鷹ネットワーク大学で行われていた「身の丈起業塾」で起業について学び、シニアが起業し社会に貢献するシニアSOHO普及サロン・三鷹の会員の方々とお話する中で、「とにかくやってみたら」と背中を押され、そうした後押しが、起業へ踏み出す大きな一歩につながったと振り返ります。

 「支援する立場となった今、当時必要だったのは『やってみようよ』と励ましてくれる存在だったと感じます。だからこそ私も、起業を目指す人にとってそんな存在でありたい。そして、三鷹の先輩たちが築いたものを受け継ぎ、次の世代にバトンをつないでいきたいと考えています」


M-PORTではセミナー講師としても活躍

未来に寄り添う創業支援

 浅川さんのプロフィールを見て、「自宅で教室を開きたい」「カフェを開店したい」といったスモールビジネスの相談が多く寄せられます。相談を受ける際には、相談者の方が“なぜ起業したいのか”“どんな未来を描きたいのか”という目的を最初にしっかりと把握するよう心がけています。

 例えば「お花屋さんを開きたい」という相談でも、ある人は花を通じて孤独や悲しみを癒したい、別の人はウエディングなど特別な日の花を扱いたいと考えるように、その目標は一人ひとり異なります。目的の違いによって、取り扱う花の種類や価格帯、店舗の有無まで大きく変わってくるのです。

 「相談される方はしばしば『開業するために必要な手続きを教えてほしい』と目の前の課題に意識が集中しがちですが、手続きを済ませても仕事は自然に舞い込むわけではありません。大切なのは“ゴール”を思い描き、その実現に必要な要素を埋めていくことです。それが事業計画につながります。最終ゴールに向かって一緒に考えること。それこそがコーディネーターの役割だと考えています」と浅川さんは語ります。

 浅川さんに相談したことで、自身の考えが明確になり、その後、カフェやお花屋さんなどの店舗をもたれた方のほか、レンタルスペースなどを活用したスモール事業としてパン屋さんや編み物教室、お弁当屋さんなどを立ち上げる方もおり、それぞれに合った形で起業をされているそうです。

相談員としての喜びと挑戦

 印象に残っている相談の一つに、「カフェを開きたい」と訪れた方が創業スクール受講を経て不動産業に転じ、現在は社長として活躍しているという例があります。最初の事業内容から大きく変化するケースもあるのです。

 相談者が“なりたい未来”に向かって歩む過程を伴走し、思いが形となって輝く姿を見届けられること。それが浅川さんにとって最大の喜びであり、相談員としてのやりがいだと語ります。一方で、常に変化し続ける社会の動向を掴むためには学びを欠かせない点に、この仕事の難しさを感じているそうです。

 相談内容は実に多岐にわたります。先月には自ら「力不足かもしれない」と感じた分野に関する相談がありましたが、相談者のたっての希望を受けて対応。その際には相談を通じて一緒に考えを整理した上で、自身のネットワークからその分野に詳しい専門家へつなげました。人と人とを結ぶこともまた、重要な解決策のひとつだと浅川さんは考えています。これまでに築いてきた人脈を活かし、常に心を開いて相談に臨む。そんな姿勢が多くの起業・創業を目指す方たちの後押しにつながっています。

専門家アドバイザー相談窓口 コワーキングスペース
M-PORTは経営や創業に関するコーディネーター相談や専門家アドバイザー相談窓口のほか、コワーキングスペースなど、幅広いステージの創業者をサポートする機能を備えています。

起業相談は未来をひらく鍵

 「ひとりで抱え込まず、誰かと話すこと」これが、これから起業を考えている方への浅川さんからのアドバイスです。さらに、同じステージで意見を交わし合える仲間を持つことの大切さを強調します。

 「話す相手には『すごいね』、『いいね』と褒めるだけの人ではなく、ときに率直な意見をくれる仲間が必要です。その仲間には、起業を志す人だけでなく、相談員も含まれます。『こんなこと相談していいのかな』、『まだ考えがまとまらない』といった段階でも構わないので、気軽に相談に来てほしいです」と浅川さんは話します。

 ひとりでは視野が狭まり、SNSなどの不確かな情報や宣伝に流されて、本来のゴールを見失うこともあります。信頼できる相談相手に話し、ありたい姿をアウトプットすることは前に進んでいくためには不可欠です。声に出す、あるいは紙に書き出す。その段階であれば、何度失敗しても問題はありません。

 ビジネスに必要なのは、自分の視点だけでなく、他人から見た自分を意識する俯瞰の目です。しかし、ひとりでは行き詰まりやすく、先へ進めなくなることもあります。そんなとき仲間がいれば、互いに刺激を受けて再び歩みを進めることができます。

 「M-PORTにはコンシェルジュがいるので、まだ起業について漠然とした状態の方でも気軽に相談できます。さまざまなセミナーや無料の専門家相談窓口もあるので、それらを存分に活用しながら、自分の夢を追いかけてほしいです」

 浅川さんのメッセージには、起業を志す人への温かいエールが込められています。

浅川さん

編集後記

 実は、私自身も数年前、浅川さんが講師を務める「女性のための創業スタートアップスクール」を受講した一人です。久しぶりの再会に取材当日は緊張しましたが、笑顔でやさしく語る浅川さんのおかげで心がほぐれました。あのとき共に学んだ仲間とは、今でも近況を報告し合い、お互いに刺激を受け続けています。

ライター:細川優子

愛するまち三鷹に目を向け、地域資源を活かして始めた新しい事業や、同じ目的・関心から生まれた集まりなど、さまざまな形で地域の活動に取り組む人を紹介します。

ライター:細川優子