2023年度4号「つながる、ひろがる ヒト・モノ・コト」インタビュー

公開日 2024年02月16日

三鷹まちづくり通信2023年度4号(2024年2月16日発行)

出会いの連続でつながり、ひろがる。知り合いが誰ひとりいなかった三鷹で、朗読を通じ、輝く女性の軌跡

 太宰治の作品朗読をライフワークとし、そのゆかりの地三鷹を拠点に活躍する朗読家、ナレーターで舞台役者の原きよさん。上京の際、大都会での暮らしに不安すらあった原さんが、知り合いが誰ひとりいなかった三鷹で、公演を自ら企画し開催するまでに至るストーリーを伺いました。

心に響く朗読の原点

 三鷹を拠点に太宰治作品の朗読をされている原さん。その始まりは高校時代、友達の誘いで体験入部した放送部での出来事です。「初めてマイクの前で喋ったんです。そうしたら顧問の先生が、マイクに乗るいい声だとめちゃめちゃ褒めてくれて。そうなんだとびっくりしました」。この事をきっかけに、のめり込む性格という原さんは放送部の部活動に打ち込み、初めて出場した放送コンテストの県大会アナウンス部門で優勝を果たしました。その後、大学在学中にFM福岡のオーディションに受かり、番組をもち、卒業後に大分放送のアナウンサーになりましたが、高校時代から朗読にも惹かれていました。「子どもの頃、NHKの『おはなしのくに』という番組がとても好きでした。語り口が心に響いて、子供心にいいなと思いました」。

 子育ての真っ最中に三鷹に引っ越してきた原さん。子育てとの両立で放送関係の仕事に復帰するのは相当難しいだろうと感じていました。そんな時、たまたま目に留まったのが開局する「NPO法人 むさしのみたか市民テレビ局」の局員募集の新聞記事。地域で放送に携われたらと考え、応募しました。ある時ナレーションをしたところ、それを聴いた武蔵野三鷹ケーブルテレビのスタッフから声がかかり、番組のキャスターや、地元の方へインタビューする機会にも恵まれました。また、「NPO法人 むさしのみたか市民テレビ局」のメンバーで、「みたか観光ガイド協会」の代表の小谷野芳文さんから「太宰作品の朗読、やってみたら?」と市民が読む太宰治の会に誘われたこともあり、こうして三鷹でのつながりがどんどん広がっていきました。

取材の様子
むさしのみたか市民テレビ局での活動

太宰治に興味を持ったきっかけ

 「私、文学少女ではなかったんです。外で遊びまわっているような子で、それほど本も読んでなかった。だから太宰治の作品にも詳しくなくて、多くの方が持つ「暗い」とか「女性がいて」というイメージがありました。最初に読んだのが『座興に非ず』。やっぱり暗いんです。なのにこの人なんでこんなに人気があるんだろうと気になり、知りたくなりました。読み始めたらめちゃくちゃ面白い。めちゃくちゃ人間らしい。正直な、でも生き方が下手な、純粋な人だなって。そういうところに惹かれて読むようになりました。太宰さんを誤解していた。一面しか見ていなかった。私みたいな人が他にもたくさんいると思うので、皆さんに太宰さんの作品の魅力を伝えられたらいいなと」。その後、多くの作品を読み、他の人が読まないような作品も探って読んでいくうちに、太宰治作品の朗読は原さんのライフワークになりました。

 そして、朗読の技術を磨くために、演劇の世界にも飛び込みました。師匠からの「表現者は、気持ちが大切。自分の言葉にすること」という言葉を体現すると、朗読にも深みが増したと周りから言われるようになりました。

朗読で広がる新しいつながり

 三鷹で開催することにもこだわっています。地域の人に聴きに来てもらうため、美味しい食事と一緒に楽しんでもらうことを思いつきました。そこで、以前市民テレビに出演されたことのある洋食屋「モダンタイムス」の店主に恐る恐る相談したところ、二つ返事で了承してもらえました。そして、ランチを楽しみながら聴ける太宰治の朗読会が始まりました。お母さんが子連れでゆっくりできる場所が地域にあればと0歳から参加できるママたちの朗読会も開催しました。

 しかし、こうしたイベントはコロナ禍で開催が困難に。大勢で集まることや外出自体が難しくなっていくなかで、短い時間で気軽に聴ける会を地元で続けて、みなさんの日常の中に朗読会というものを入れていただきたいという原さんの想いはより強くなりました。

 そんな想いで3年前から始めたのが『響き合いプロジェクト』です。「必ず共演者がいて、その人と響き合うという内容です。朗読プラス演奏だったり朗読家同士だったり、時にはタップダンスだったり、とにかく実験的な感じ。朗読に馴染みのない方もいるので、演奏をきっかけに朗読も聴いてもらえるなど、興味の入口は多い方が良いと考えました」と経緯を話してくれました。会場は、レストラン キュルティベ2階にある「ギャラリーCaparisonⅢ」や「一富士カフェ」。三鷹のお店を知ってもらう一助にもなっています。

 「朗読会を楽しみに何度も足を運んでくださるお客様も多くいて、続けてきた活動が少しずつ根付いてきた感じがして、とても嬉しいです。結果、席が埋まってしまうこともあるのですが、自分の身の丈に合ったことをしたいと思っているので、小さな会場で続けていこうと思っています」。

モダンタイムスで朗読する原さん
一富士カフェで開催された響き合いプロジェクト

三鷹での私の未来図

 一方、原さんは、東京大空襲を体験した90代の語り部の友人と戦争を伝える『3月の羊』の活動も始めました。お二人の共通点である3月生まれの未年にちなんだ名前です。大分で育った原さんにとって広島、長崎の原爆は身近な出来事でした。だから子どもが通う学校に平和授業が無いことに驚き、ショックだったそうです。「戦争について聴く機会があるといい。語り部の彼女には自身の体験を喋ってもらい、私は戦争を語り継ぐことはできないけれども戦争を体験した方が残した文章を読み継ぐことはできる。だから読み継ぐ人間になりたいと思って『3月の羊』を始めました」。

 他にも、人形劇や人形を使ったアートパフォーマンス集団「かわせみ座」のメンバーとして文化庁の「文化芸術による子供育成推進事業」にも参加し、小中学校を巡回しており、今後も、学校での巡回公演に取り組んでいきたいと語ります。

 そして、趣味としてやってみたいのは、原さんが好きな着物のイベント。「各世代の方にランウェイを着物で歩いていただく『着物ファッションショー 三鷹コレクション』をやりたいんです。ゆくゆくはオーディションを開催して、ランウェイを歩くことがみんなの目標になったら楽しくないですか」と思い描いています。

 原さんにとっての三鷹は「人生の中で三鷹暮らしが一番長くなり、今では地元になりました。住んでしまうと居心地がよく、ゆったり過ごせるまち。初めは私にとって全くゆかりのない、知り合いもいない場所で、人との関わりは公園だけでした。それが地域の活動に関わったおかげで様々な人と出会い、つながりができたのです。まずは出ていって、やってみること。誰かしらが支えてくれるから、心配せず地域の活動に加わってもらいたいです」。最後に、人と出会うためには「あいさつが大事」と力説する原さん。自分から、あいさつすることで運が開いていくのかもしれません。

文化芸術による子供育成推進事業での様子
ステージにたつ原さん

取材後記

 高校の顧問の先生の一言から、次から次といろんな出会いがあり、まるでドラマのようで、インタビューでもグッと惹きつけられました。「私、本当に運がいいんです」と話されますが、その奥に隠された真面目さが運を導いていると感じました。普段のお話も楽しく、特に着物ファッションショーは、私も参加してみたいです。着物を気軽に楽しむ人が三鷹に増えたら素敵ですね。

■ 朗読家、ナレーター、舞台役者 原 きよ
WEBサイト等:TwitterFacebook(株)マックミック劇団シアターRAKUブログかわせみ座

ライター:細川優子

愛するまち三鷹に目を向け、地域資源を活かして始めた新しい事業や、同じ目的・関心から生まれた集まりなど、さまざまな形で地域の活動に取り組む人を紹介します。

ライター:細川優子