2023年度1号「つながる、ひろがる ヒト・モノ・コト」インタビュー

公開日 2023年07月01日

三鷹まちづくり通信2023年度1号(2023年7月1日発行)

ワーカーズコープ(労働者協同組合)という新しい働き方・暮らし方とは。8人が実現した「みんなが経営者」というカタチ。②

“メンバー全員が経営者”という新しい働き方を目指しているお店「量り売りとまちの台所 野の」の第二弾。新しいのは働き方だけではありません。お客様との関わり方も既存のお店とはひと味違うよう。
メンバーの藤田恵美さんに、つながりを大切にしながらやりたいことを実現する醍醐味について伺いながら、三鷹にあると嬉しい、お店の魅力に迫ります。

私たちの暮らしと世界のつながり

 お店に伺うと、厨房に立つ女性が柔らかい笑顔で迎えてくださいました。「量り売りとまちの台所 野の」の8人の経営メンバーの一人、藤田さんです。ご結婚を機に三鷹で数年過ごされたのち、ご主人の海外赴任の同行で日本を離れ、2018年に再び三鷹に居を構えた藤田さん。20年近い東南アジアでの暮らしの中で感じたことに、ゴミの問題や貧富の差がありました。有害なガスが発生しているごみの山から子どもがリサイクルできそうなものを拾う光景、その中には日本製品ももちろんあります。さらに、「東南アジアへ海外企業が市場拡大や製品開発・生産のために進出していきます。私たちの便利で楽な生活は、いかにその国に負担を強いているかは企業名や商品からは見えてきません。世界は、私たち日本人の食料、生活にとても関わっているのです」と、藤田さんは私たちの生活の基盤がゴミや様々な問題を生み出していることに気がつきました。そして、国レベルで変わることはもちろん大切ですが、まずは、生活レベルのつながりの中で意識や行動を変えていかなければ良くならないのではないかと考えるようになりました。

 海外生活を経て、これからの世界や子どもたちが暮らしやすい環境を守っていかなければならないと考えるようになった藤田さん。ボランティアに参加して環境問題やフードバンクに取り組んでいました。ある時、三鷹ネットワーク大学と三鷹市市民協働センターが主催する、地域活動の新しい人財の発掘や始めるきっかけづくり、仲間づくりを目的とした「三鷹『まち活』塾」の修了生仲間と話し合う場があり、そこで「野の」の現メンバーの一人である濵さん(2022年度4号で紹介)から「量り売りのお店をやらない?」と声をかけられました。「濵さんは地域のことに色々と取り組んでいる人で、そんな人と一緒にやることでつながりが広がり、自分の視野も広がります。このつながりを大切にしながら環境のことも考えていけるんじゃないか、とても面白いことになるんじゃないかとわくわくして、お誘いがあった時はすぐに賛同しました」と経営メンバーの一人になった経緯を話してくれました。


合同会社 野の 藤田 恵美さん

やりたいことを実現できる場づくり

 「野の」ではお店にあるシェアキッチンの月曜日の枠を、イベント枠として貸し出しています。今までに金継ぎ教室、紅茶のワークショップ、料理イベントなどが行われました。例えば三鷹の農家さんによる新にんにくの食べ方教室はあっという間に予約で埋まってしまうほど大盛況でした。何かを始めたい人にやってみる機会や経験、自信を得られる場所、何かあれば集まれる場所が三鷹にあるといいなという想いです。「地域の色々な人たちに来てもらって、使って貰いたい。『場』があれば、そこから活動や発信が広げられる。『場』の重要性を感じています」と藤田さんは語ります。

 「子どもは地域で見守り育てるべきだ」という考えの藤田さん。月曜日の夜に開催される『みんなDeごはん』は、こんなこども食堂が増えたらいいなと思う藤田さんがやりたいことを形にしました。「子どもだけで食べにきてもいいし、孤食や親子二人きりで食べている人たちも『ここに食べに来ていいよ』という場所を作りました。また、なにかお手伝いしたいけれど、どこに参加して良いか分からないという人もいらっしゃる。そういう人には一緒にごはんを作ってもらいます。料理を作りたい子どもも保護者とお手伝いできる。そしてみんな一緒にごはんをいただきます」と、藤田さんは笑顔で話します。他にも三鷹市内の子どもの学習支援の拠点には、「勉強のモチベーションにつながれば」とおにぎりを届けています。「野の」で自分のやりたいことを実現できる楽しさを感じています。

仕事風景 インタビュー

三鷹を盛り上げるお店に

 「野の」は登記したタイミングが、労働者協同組合法が施行される前だったため、労働者協同組合に一番近い「合同会社」という形態(総社員の同意によって物事が決定するなど)をとっていますが、目指すものは「協同労働」。みんなで決めて、みんなで経営するスタイルです。様々な考え方を持った人がいて、人との出会いがあり、自分だけでは知りえなかった情報を得られ、自分では考え付かなかったアイデアが出て、とても世界が広がっているという良さも感じています。

 一方で「『ボランティア』と『働く』ことの違いはありますか?」との質問には「まったく違います。経営は責任が伴い、お金のことも考えなくてはいけません。経営は大変です」と話す藤田さん。2022年10月のオープンからまだ1年経っていないこともあり、今後の課題は認知度アップ。お店で量り売りをしていること、そして、三鷹に住まう日常や未来がより良くなるように、やってみたいことがある人が、つながり、一緒にやっていくことができる場所だということも知ってもらうためです。

 自分たちだけが中心になるのではなく、地域の人に参加してもらって、たくさんの人が集う、三鷹を盛り上げる場所にしたい。その想いから、「野の」にあるシェアキッチンを「まちの台所(日替わりカフェ)」として火曜日から日曜日までシェアメイトと呼ばれる他の団体に貸し出しています。コーヒーやこだわりのカレー、ハンバーガーや国産食材と季節の野菜など、安全安心な素材を使ったものが食べられます。「いつか自分のお店を持ちたい」、「毎日は難しいけど、週に何日か営業してみたい」、「お料理を通して地域と関わりたい」そんな方々を「野の」は応援しています。

 また、お客様からの「こんな商品を置いてほしい」という要望に応えていきたいと、先日、商品ドラフト会議が初開催されたそう。「店内に、こんな商品を置いて欲しいと要望を書けるようにしています。地域の人たちが日常使いできるようなものを揃えていきたい」と藤田さん。

 「野の」の扉は、地域に向けて大きく開かれています。

日替わりカフェ 商品 食事

編集後記

 私自身、毎日のようにテレビをはじめとするマスメディアから伝えられる環境に関する情報に、漠然とした不安を抱いています。このままだと大変なことになると感じつつも、何をしたらいいのか、何ができるのかわかりませんでした。この2回の取材を通して、野のさんが取り組んでいること、例えば、量り売りの買い物や地域の野菜を美味しくいただく料理会に参加すれば、私も暮らしに環境に良いことを取り入れられると気づきました。ひとりではできないけれど、一緒にやれば実現できる。身近にそういう場があることのありがたみを感じました。きまぐれランチ、美味しかったです。(細川)

ライター:細川優子

愛するまち三鷹に目を向け、地域資源を活かして始めた新しい事業や、同じ目的・関心から生まれた集まりなど、さまざまな形で地域の活動に取り組む人を紹介します。

ライター:細川優子