野崎西まちづくり戦略 多摩大学 望月照彦さんの講演より

1997年4月11日

講演1997年4月11日(野崎地区公会堂)

昔からハイテク関連の企業が集積している三鷹市で産業をうまく活かしながらどうやって活力ある地域をつくっていくか、以前、三鷹市の産業振興施策検討委員会で勉強しました。まちづくりは、将来に向けてどんな素晴らしいまちにしていくか、という基本的な哲学と考え方をしっかり持って進めることが重要です。今日本で一番注目されている商業市のまちづくりの例は、滋賀県・長浜の試みです。長老たちに相談しながら、住民の若者が自分たちでまちづくり会社をつくり街道を見直した結果、10年前の交通量は1日通行人4人に犬1匹でしたが、いまや年間150万人が訪れるまちになり、地価も含めた「地域の価値」を上げることができました。野崎西地域もまちを見直すには大変いい時期で、今後まちのイメージをどうつくり上げていくかが大切です。

ケヤキ並木

人見街道の立派なケヤキ並木

また、人見街道のケヤキ並木も東京近郊でも例をみない大変価値のある環境財産です。数百億円の価値を持っていると思われ、道路拡幅費用よりも高いでしょう。このような先祖の知恵、英知を背景とした地域の歴史を守るだけでなく、もっと価値あるものに磨くことが、今私たちに求められています。自分のまちの地域資産をしっかり棚卸ししてみましょう。数百億円単位の資産をもうすでに持っているという発想からスタートしてください。まちづくりのコンセプトは、時代が残した大きな成果をどうやって活かすか、です。

次世紀の地域商業を考えるとき、これからは非常に広範囲からお客様を集め、高利益の商売をおこなうことができると考えられています。そのためアメリカでは、単純な「SC(ショッピングセンター)」ではなく、「EC(エンターテイメントセンター)」つまり‘お客様をお招きする心のあるセンター’といったものが大変注目されています。日本でも「キャナルシティ博多」が「EC」の中でシアターコンプレックスの成功例として脚光を浴びています。この「EC」については、後ほどまたご紹介しますが、ぜひ、皆さんの計画にもとり入れてみることをお勧めします。

田園型と都市型環境が調和した『田園都市=ガーデンシティ』というまちづくりの考え方があります。イギリスでこれ以上都市環境の劣悪化を許すわけにはいかない、と‘発明’されました。田園調布や国立もこの考え方の影響をうけた地域です。三鷹はそもそも都市と田園がぶつかったエリアだと思います。「21世紀のガーデンシティをつくる」ことが、地域のビジョンを考える上で一番重要なポイントになるでしょう。今後この考え方に沿って私の話を進めたいと思います。

次に、「地域を磨く3つの知恵」についてお話します。

 

今後のまちづくりを「ガーデンシティ野崎西」ということで話を進めたいと思います。今、世界的なまちづくりや商業地のつくり方に大きな流れがありますので、この地域を磨いていくための3つの知恵、考え方をご紹介します。

第1は「サスティナブルコミュニティをめざす」ということです。“持続可能な地域社会”、例えばケヤキ並木といった素晴らしい環境が100年、200年続くことを先祖たちはイメージして育ててきたのです。そのことが1年毎に地域価値を上げてきたことを忘れてはなりません。

2つ目は「環境浪費型社会をどう乗り越えていくか」です。安いことが良かったという時代はもう過ぎてしまいました。最近のアメリカでは郊外のロードサイドにつくられたローコストな建物がゴーストタウン化していることが問題になっています。これは環境そのものを浪費してまう社会なのです。比べてヨーロッパのまちでは、丹精込めた街並みが何百年も続いています。例えばイタリア・フィレンツエには150年かけて地元の方々がつくり守ってきたサンタマリアデルフィオーレ教会があります。この500年前に建てられた地域の素晴らしい資産のおかげで、毎年1千万人がそのまちを訪れ、喜んで食事をし、買い物をしていくのです。

安い建物は、日が経つにつれその資産価値は低減していきます。ところが、素晴らしい文化投資を惜しまなかったものについては日を追うごとに価値が上がっていきます。まちづくりはそういう発想をしなくてはいけません。郊外にゴーストタウンをつくって、そのテナントが駄目になったらすぐに撤退する。そこには本当に汚れ荒れた風景しか残らない、これは地域の恥です。

3つ目は「クオリティ・オブ・ライフをめざす」です。これからは地域社会の中で、非常に素晴らしい豊かな地域生活を送れる環境を創ることが大切になります。上質な生活を享受し、楽しむことができる。殺伐とした都会の中で、この地域がそんな憧れのまちになり、人が集まってくる、そのようなまちづくりをやって欲しいと思います。その可能性がここには100パーセントあるのです。

木1本、1本に流れている歴史の重さ、それを守ってきた人々の心、育ててきた文化、農業の技術を大切にしてください。そしてそのような議論をして欲しい。数百億円の地域の財産をひとつでも無駄にしてもらいたくないと、心からそう願います。

 

日本国内の素晴らしいまちづくりの例を2つご紹介します。1つは先に触れました滋賀県・長浜の例です。彼らのまちづくりスタートは、小さな黒壁の建物を20代~40代の若者がお金を出し合って保存したことでした。後に市が黙っていられなくなり支援させて欲しいと言ってきました。普通は逆に住民が市に補助金などを求めますね。しかし彼らは、地域は市役所のものではなく自分たちのものだと一切補助金などを求めず、自分たちで守るんだとみんなで少しずつお金を出し合って、三千万円の資金を集め「株式会社黒壁」を起こしました。ところが施設を取得した後も保存を続けるのにお金がかかる。そこで今まで地域に一切関係のなかった「ガラス細工」商売を始めました。集めたお金の中から、やる気のある若者達を2年間ヨーロッパへ勉強に行かせ、戻ってきてから長浜グラスという新ビジネスを始めたのです。最初はなかなか大変でしたが、10年たった今では150万人が訪れる“あの”長浜となりました。市には道路整備をしっかりやってもらえばいい、文化は自分たちでつくると頑張っています。ちょうど人見街道と同じ様な人の輪の広がりといえないでしょうか。もっとも、私は全て民間がお金を出した方が良いと言っているわけではなく、「市民・住民が考え、実践するとみんなが支援してくれる」ことを言いたいのです。

商店街

「コミュニティ型商店街でも夢とロマン」の例として、大分県・竹町商店街を紹介します。駅から少し離れた商店街の凋落を何とかしようと、70歳の理事長さんが10年前から勉強会を始め、大分県知事も「一商店街一自慢運動」をおこないました。商店街の老朽化したアーケードを、日差しにも雨にも強いガレリア(注:galleriaガラスなどでつくられた屋根をもつ歩行用の半屋外空間)につくり替えようとし ミラノのヴィットリオエマヌエルガレリアに負けないものを造ろうとしたのです。70店舗で10億の改修費を出すのは大変でしたが、10年前からの貯金が一店舗当たり150万円、計1億円の用意がありました。理事長、知事などが懸命に知恵を出し、国が2億出すことが決まりました。国が2億なら、県も2億、市が2億出さなければ、ということになり6億円が無償で出ました。公的資金が6億、高度化資金で3億、自分たちが1億と、1軒150万円で10億円の素晴らしいガレリアが誕生しました。これは「ファンドデザイニング」、“資金をデザインする”と呼ばれます。たとえば東八道路に面して架橋事業をやろうとすると、同じようにしていろいろなところからお金を引き出すことになります。長浜は民間主導で行政があとからついてきてお金を出したという事例でしたが、それとは逆に知事、市長さんが頑張ったという事例です。

別の例では、アメリカで映画のスピルバーグ監督が提案したシティウォークという商業集積が注目されています。カリフォルニア大学バークレイ校関連の映画・演劇学校が、商店街の中心に教室を出しています。勉強にくる学生達がその商店街で買い物をするので、“街を歩く”という素晴らしい生活テーマパークとして大成功しています。天文台通り、人見街道もこんな展開が考えられると思います。「楽しいまちに楽しい暮らしがある」のです。

 

野崎西地域でも、大型店を導入すべきかという課題があるそうですが、「外国のまちでも商店街が大切になっている」話もしたいと思います。世界最大といわれるウォルマートという大型店に対し、アメリカ市民の間から拒絶症がでています。なぜでしょう。それぞれ地域独特の素晴らしい環境のところに、突如どこにでもあるものができてしまうからなのです。自分たちが守り、大事にしてきた個性が、マニュアル化された店舗の建設によって均一化されてしまうからなのです。大型店を導入する時は、地域の個性に合わせたEC(エンターテイメントセンター)をつくるという選択肢も考えていただきたいと思います。

ECの話は先にもしましたが、付け加えれば最近ロサンゼルスに誕生したECには、博多の「キャナルシティ博多」のようにシネマコンプレックス(映画館の複合体)があります。これがものすごい収益を上げていると同時に、地域社会に貢献する機能を果たしているのです。午前中その映画館は子供達の映像教育の場となり、午後は無料のシルバーの方のエンターテイメントセンターとなります。夕方やっと有料の映画館となり、しかも映画を見るだけでなく、本を買い、音楽を聴き、食事をする場所になっているのです。そしてものすごい家賃収入があがっているのです。

長い視点で地域のためになる、日本で誇り得るような素晴らしいガーデンシティの未来を、皆さんの英知で是非デザインしていただきたいと思います。

最後に「まちを創る3つの“ちえ”をお話ししたいと思います。

1つ目は頭の「知恵」です。知識のことです。これはご説明するまでもありませんね。

2つ目は「地恵」、つまり土地の恵みです。土地の価値を百万倍にもするために、土地の恵みを活かしてください。ガーデンシティ=田園都市の考え方を貫いてください。

最後のちえは政治の治「治恵」、行政からもいろいろな「ちえ」を出していただきたい。

この3つの“ちえ”を活かすことが、野崎西地域の未来を輝かしいものにするのです。息子にも孫にも、誇りを持って「こういうことをしてきた」「こういう街づくりをしてきた」といえるまちづくりにむかって、邁進してください。